アウディのTTクーペです。いつ見てもおもしろい形をしています。ただ「おもしろい形」と言うだけでは投げやりな言いぐさですが、色んな時代の色んなメーカーの色んな車を目にした今になってなお「おもしろい形」と思える車は、そう多くはありません。この初代TTについてはカーデザイナーである奥山清行さんの著書で言及されており、デザイン以上にその巡り合わせがまた「おもしろい」と感じました。
奥山清行さんの「ムーンショットデザイン幸福論」では、奥山さんのこれまでの仕事仲間が登場します。奥山さんがポルシェで働いていたときの同僚であるフリーマン・トーマス氏の項目(36ページから)で、この初代TTが触れられていました。初代TTはアウディから市販される15年前に、ポルシェで一度ボツになっていたそうです。そのデザインはトーマス氏が考える新しいポルシェ像だったのですが、あえなく不採用と。しかし、トーマス氏は諦めきれずに自宅でこつこつとクレイモデルを練り上げており、それはポルシェデザイナーの仲間内でも有名だったようです。そして、トーマス氏がアウディに移籍してチーフデザイナーになった際、思い切ってクレイモデルを自宅からスタジオへと持って行ったら、フェルディナント・ピエヒ会長に一発OKをもらい、日の目を見ることに。
この歳月と巡り合わせは大変興味深いのですが、実は他にも長い年月を経て他社で日の目を見たデザインってあるのではないだろうかと考えてしまいます。TTの場合は原案から市販されるまでの紆余や曲折を知っている奥山さんの本があったので、こうして私でもその経緯を知ることができました。それはたまたま知ることができたと言っても差し支えない確度の話です。これまで投稿したきた画像の中にも、「実はこれ、他社で一度コンペにかけられてたんだよね」というデザインがあったかも知れないと思うと、今から前のめりになってその紙一重な巡り合わせに心の準備をしてしまいます。そして実際、そういう巡り合わせはあるんだろうと思っています。
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